信州大学医学部山岳部のブログ

滝谷第3尾根ワンデイ

time 2019/05/17

滝谷第3尾根ワンデイ

【今シーズンの集大成~積雪期滝谷第3尾根~】

☆日程:2019年4月12日~4月14日

☆メンバー:そーだ、ちむら

☆気象状況:晴れ

☆所要時間:2355新穂高温泉駐車場→0100穂高平小屋→0335滝谷避難小屋0350→0440雄滝→0555合流点→0915第三尾根取付き→1535第三尾根トップアウト→1655縦走路合流→2020涸沢岳2030→2340林道合流(白出沢出合)→0150新穂高温泉駐車場  ※総行動時間:25時間55分

☆装備:ダブルロープx1、カム#0.5~#4、ナッツ、トライカム、ロックハーケンx6、アイススクリューx3(雄滝用)、アブミ

※軽量化のため、幕営道具はもって行かず最低限のビバーク装備を持っていた。

  『「冬の滝谷」という言葉、そしてイメージは、まさに冬期アルパインクライミングを象徴するものであろう。北アルプス3000mの稜線直下、しかも北西に面したこの急峻な壁は、「凍てつく岩壁」という言葉が実にふさわしい。ここの冬期登攀を究極の課題と捉え、それに向かって力を蓄えてきたというクライマーは、過去、実に多いに違いない。』

 そう、「冬の滝谷」、そこはアルパインクライマーたちの憧れの場所なのだ。かつて多くのクライマーが命を落とし、それでも向かい、多くのドラマを生んできた場所なのだ。  

滝谷ドーム、左の雪壁上部に自分たちのトレースが見える。

 今シーズンが始まるとき、僕はそーだにこう話した。「今までの集大成に、今年は戸隠に行こう。西岳P1尾根、撤退ありきで挑戦してみない?」。そして僕らはその最終目標を目指して準備を進めた。12月に偵察に行き、1月は八ヶ岳道場でクライミングに励んだ。そして迎えた2月初週、僕たちは無事目標を達成した。普通ならここで、ハッピーエンドで話は終わるだろう。しかし頭の悪い僕たちは、普通では終わらなかった。次の日には、「やっぱ集大成に錫杖行かない?」となり、最終的にはそーだが錯乱して滝谷行こうと言い出した。錯乱であろうとなんだろうと僕がこれに乗らない訳がなく、滝谷第3尾根が3月末に計画された。この時は天候が安定せずに、コンディションが良くないだろうということで見送ったのだが、4月の2週目、遂にその日を迎えた。

行動開始

 「鳥も通わぬ」、「岩の墓場」、どちらも滝谷を形容する有名なセリフだ。そんなところに行くというのに、授業は当然のようにある。12日の金曜日、5時に授業が終わり、そーだと目が合って苦笑いする。遂に始まってしまう。帰宅して急いで準備をし、8時に出発。松本城の横を通るとお花見を楽しむ人々で賑わっている。それを横目にそーだがぼそっと、「まるで護送車だな、、」。夕食後に買ったダメ押しの追い弁当を頑張って腹に収めつつ、同意することしかできなかった。新穂高で少々仮眠を取り、11時55分、行動開始。いつも通りぺちゃくちゃおしゃべりしながら歩いていたら、約3時間で滝谷避難小屋に到着した。ここには滝谷で亡くなった岳人の魂がたくさんいると言われている。小屋の中には少し気味の悪い書き置きがあったが、心を決めて出発。両脇から流れ込むデブリ帯をできる範囲で避けつつ、どんどん奥に入っていった。

漆黒の圏谷を詰める
デブリーランドが続く

 自然と足が早まり、順調に危険地帯を抜けた。雄滝も滑滝もロープを出さずに突破できた。徐々に夜も明けてきて、背後に日本離れした景色が広がった。合流点に出ると谷の傾斜も落ちて気は楽になるが、ここからが沢の迷路。無事にC沢に入れたものの、結構時間がかかってしまった。取り付きの赤ガリーと思われる場所に9時過ぎに到着。左に第3尾根、右に長大な第4尾根、目の前に少し岩の色が灰緑の塔、グレポン、グレポンの奥に奥壁。絶景だった。

トレースを振り返る
取り付き付近、左に赤ガリー

 赤ガリーに取り付くと、モフモフの雪の奥に岩が触れる。アイゼンの嫌な音を聞きながら、7割ほどをノーロープで上がった。表面の雪が浅くなったところで、ハーケンで支点を取り、登攀開始する。1P目千村リード。左上ぎみにリッジに乗り上げ、カムでアンカー構築する。リッジに乗り上げると、背後に絶景が広がった。滝谷出合から延々と続く僕たちのトレースも綺麗に見える。

赤ガリーを詰めるそーだ

 2P目そーだリード。リッジ上のピナクルを左から巻こうとしたようだが、残置もなく悪いらしい。選手交代して僕も見に行ってみたが残置もなければ信頼のおけるリスもクラックもない。この状況で斜上トラバースはリスクが大きいと判断し、直上や右巻きも考えたが、どこを見ても残置もなければ弱点も見えない。トポを見ても何が間違っているのか分からなかった。諦めモードのそーだを横に、右をかなり大きく巻くルートが見出せそうな気がした。懸垂をトラバース気味に2回して右にあったルンゼに出ると、ピナクルの上に抜けるラインがあった。この時点で既に2時になっていた。正規ルートかどうかは分からなかったがこのルンゼをそーだリードでリッジまで抜けた。

ピナクルを左から巻こうとするも阻まれる
右側に見つけたガリー

 ようやく所々にハーケンも現れて、リッジを2ピッチでドームへのアプローチ道に合流した。ここからコンテと懸垂1回で穂高の稜線に抜けた。時間は夕方5時だった。

リッジに復帰
最終ピッチ
何とか穂高の稜線に抜けた。夕方5時。。

 一般路に抜けれてさあ安心、涸沢岳まで一直線と思いきや、ここからのルーファイが難しかった。滝谷側からガスが上がってきて、夜の闇も迫ってくる。松本の夜景がやけにセンチメンタルな気分にさせる。そーだの神がかった鎖ファインディング力に助けられ、8時過ぎに闇に包まれた涸沢岳に到着した。

涸沢岳直下。アックスには氷が付いてガチガチである。

 天気も回復傾向で、蒲田富士が月に照らされて闇夜に浮かんでいる。そーだは年末に涸沢西尾根から奥穂高登っているし、遂に落ち着けるかと思いきや、またまた試練が。そーだが30分ほど爆走したところで地図を見て、「ごめん、西尾根あっちや、、」と、遥か上に見える尾根を指して呟いた。絶望しながら地図を見ると、なんとかそのまま白出沢に下りて繋げられそうだ。雪も安定していたので雪崩のリスクは低いと判断し、そのまま下った。白出大滝やその上部の滝などが巻けるか少し不安だったが、結局懸垂することもなくきわどいクライムダウン1回で抜けることができた。疲労と睡眠不足で、休憩したらすぐに寝てしまい歩いていると幻覚が激しい中、遂に白出沢出合に抜けた。1時50分に新穂高の駐車場に戻った。結局26時間行動となった。

 今回は、総合的に考えればかなりハードな内容だったが、1つ1つの要素に分解して考えると、今まで積み重ねてきたものの色々な部分を集めただけなのではと思った。そういう意味で、日頃の練習は今回の計画を完遂するのに足りていたと考えることができるし、これからもコツコツと1つ1つ積み上げていきたいと思った。本当に、今年度の集大成としてふさわしい山行となった。

☆おまけ

【アプローチ】

 滝谷避難小屋から滝谷へ入る。両サイドは高いゴルジュに囲まれており、周囲の支沢からは雪崩のデブリ跡があり、しっかりと雪のコンディションを確認しないとロシアンルーレット的なパートになってしまうだろう。滝谷を詰めると左俣、右俣に分かれる。ここを右俣のほうにみると一段と高い雪壁のようなものが見えるがこれが雄滝である。我々が入った際には雄滝はほぼほぼ埋まっており難なく通過できた。さらに詰めると支沢がいくつも分岐していく、F沢、A沢をやり過ごすとB、C、D沢の合流点に出る。冬期クライミングの概念図ではあたかもB沢がC沢から分岐しているように描かれているが、正味みつまたに分岐している。ここでのルーファイは注意が必要で間違ってはいると時間と体力的に詰む。第四尾根がC沢とD沢に挟まれていることを意識すれば間違えないと思われる。C沢から傾斜が強くなる。我々が入った際にも上に進むにつれて雪質が緩くなりスピードがかなり落ちた。取付きは明瞭で奥壁のとなりで明らかに登りそうなのが赤ガリーである。ニセガリーも下部は登れそうだが、ラインを目で追っていくと途中から訳が分からなくなる。

合流点からの様子。左から順にA沢~F沢である。

【第3尾根】

  赤ガリーから登る。我々が入った際は少し軽めの雪がついていた。上部はベルグラ状だったので赤ガリーの抜け口手前からロープを出した。2Pロープを出して巨大ピナクルの手前に出る。岩がほとんど露出していたのでロッククライミングとなった。ピナクルの手前では残置ピンが1つあるものの垂壁が立ちはばかっておりラインがわからず。左上に残置ピンのビレイポイントらしきもの(撤退パーティーが残置?) があったもののその先に登れそうなところは無かった。1Pほど懸垂すると登れそうな雪に覆われたルンゼがあったのでそちらにトラバースしてルンゼを登る。ルンゼ内はところどころ残置ピンがあった。ルンゼ内を1Pで登り上げ、その後、リッジに沿って草付きミックスを2P登り上げたらドーム取付きの懸垂支点に到達した。この間は残置が豊富であった。終了点からはドームの取付きの道をたどったが雪で完全に埋まっており、神経を使う急な雪壁のトラバースが続いた。

夏は5分で行ける稜線からドーム取り付きへのラインも、雪があるとなかなか複雑である。

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